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ZEPHYR

Gallery OUT of PLACEでは、2022年5−6月期の展覧会として、
3人の美術家によるグループ展「 ZEPHYR -西から吹く風の中で-」(平面絵画)を開催いたします。

ある辞書にはzephyrの意味は、非常に穏やかで優しい風、と記されている。
さらにその語源を紐解くと、
14世紀半ば、古英語Zefferusから派生したもので、元はラテン語のZephyrus、ギリシャ語のZephyrosの「西風」(時に神として擬人化されることも多い)と符合し、
おそらくzophos「西、暗い地域、闇、暗がり」に関連していると考えられる。「穏やかな西風」という拡張的な意味は1600年頃に定着した、とのこと。

そんなzephyrの意味・語感と3人の画家達の人柄が醸し出す雰囲気とが相まって、今回の展覧会のタイトルを「ZEPHYR」としたのだが、
人柄以外にも、正統派抽象画風、大きい画面に対峙し描き進める制作アプローチ、また3人ともにおおよそ同じ世代で出身や育ちが奈良、そして京都の美大を修了しているなど、3人には共通点が多い。
勿論その一方で、三者三様の強い個性を発揮しているのも事実だ。

五影は10年前に単身渡欧し、それ以降独自の画風をドイツで確立してきた。画面には多様な色彩を使いながらも、乳白色がかったメディウムを制作過程で繰り返し用いる。
薄く白いヴェールを通して見る画面は水の流れや微かな風の動き、湖面のさざ波や反射する光を彷彿とさせる。
観るものは曖昧模糊とした世界に深く潜入した後、静謐な水底に辿り着き、そこに横たわる自分自身を発見する、そんな感覚に包まれる。

江上は、眼前のシンプルな景色が実は異なる複数の層が重なり合い構成されているという考えの元に、
幾何学的整合性の中に圧倒的な透明感を表現しつつ、しかしどこかにかすかな不協和音を忍ばせた空間を作り上げていく。
それは何層にも重なり合った空間であると同時に、作家本人によって全ての要素が冷徹に統合された、ある一瞬の「時間」が画布に定着されているのかもしれない。

藤川の絵からは、未知なる何者かの重厚な叫び声が聞こえてくる様に思うのは筆者だけだろうか。
オーソドックスな技法で描きつつも、藤川の探求の先にあるのは誰も見たことのない世界だ。彼女は光が照らし出す形や輪郭ではなく光そのものを描こうとしているのかもしれない。
宇宙の中を縦横無尽に走る光の粒子の軌跡、不可視ながらも確かに聞こえる音という波動を捉え可視化しようとしている様にも思える。

地政学上極東に位置する日本にとって、「西」とは従来は欧米中心の世界だったものが、今や、中国、韓国などの東アジアの国々、
そしてユーラシア大陸の国々を含めたある意味全世界が日本の「西」に位置し大きな影響を私たちに与えている、2020年代とはそんな時代だ。
今回紹介する作家達も芸術の分野で、今、世界からの強烈な「偏西風」を全身に受けながら、
日本人(芸術家)としてのアイデンティティを明確に自覚することが求められているのかもしれない。
しかし彼女達はただ風に吹かれるままの存在ではなく、大いなる可能性を秘めたzephyrそのものになり、
東西を超えた世界に向けて、風を送り込む役割を今後果たしてくれることになるだろう。

この機に3作家のしなやかで力強い新作を、ぜひご高覧ください。

参加ギャラリー (クリックして作品をみる)

奈良市今辻子町32−2