企画展『Acts of Care』 第3期:ナヤブ・イクラム、サンプサ・ヴィルカヤルヴィ『Families』

『Acts of Care』第三期では、 KANA KAWANISHI PHOTOGRAPHYにて、2025年4月5日(土)よりナヤブ・イクラムと サンプサ・ヴィルカヤルヴィの二人展『Families』を開催いたします。

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ナヤブ・ノール・イクラム(Nayab Noor Ikram)は、フィンランドを拠点に活動するビジュアル・アーティスト。オーランド諸島(6,500を超える島々からなるフィンランドの自治領/住民のほとんどはスウェーデン系)出身のパキスタンのディアスポラ(「移民」「植民」を意味する思想用語。ギリシャ語のディア(分散する)とスピロ(種をまく)を語源とする。出典:artscape)でもあります。写真、映像、パフォーマンス、インスタレーションなどの作品を手がけ、儀式や象徴を通して、中間的であるということ (in-betweenship)、文化的アイデンティティ、記憶などの概念を探求しているアーティストです。

本展で発表する映像《The Family》は、アーティストとその家族によるパフォーマンスの記録です。美しく暮れゆく夕陽を背景に、母親がアーティストの髪を儀式的に洗ってゆきますが、伸びやかな声が幼少期の呼び声のような懐かしさを喚起させ、鑑賞者ひとりひとりのルーツに染み込んでゆくかのようでありながら、実は即興的であるという仕掛けによって、家族の個々に横たわる緊張感や感情や記憶をも炙り出すコミュニケーションとしても機能しており、伝統や儀式の創造や継承についても思考させられます。

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もうひとりのアーティスト、サンプサ・ヴィルカヤルヴィ(Sampsa Virkajärvi)は、時間と変化と社会、そして個人の選択とその不可能性に興味を持つビジュアルアーティスト/ドキュメンタリー映画監督。本展では2点の映像作品を展示いたします。

《What Remains?》では、自宅で認知症を患うアーティストの実母の晩年を描き、病気が進行するにつれて時間と場所が変化していく様子を描いています。いくつもの家で同時に暮らす彼女。老いた人とその介護者が遭遇する、記憶の喪失、視覚の弱体化、理解力の低下にまつわる困難の一端を描きだすことを試みる作品でもあります。

《With You》は、かつてはパイロットとして一家を大黒柱として支えていた尊敬する実父が、最晩年にはほぼ一日を寝て過ごす様子を克明に描いており、息を引き取るその日までの父と息子の物語をまとめたノンフィクションです。育った時代も、就いた職業も、性格さえも正反対であった父に対して、時には葛藤をかかえながらも深い敬愛を抱き続けた作者である息子が語る、「あなたの生きた80年で、僕たちが一緒に過ごしたわずか18年は、短すぎました」という言葉が光ります。

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すべての命には、その遺伝子を遺した親が存在します。目まぐるい日々のなか、過ぎ去った幼少期や、必ずやってくる別離の未来から目を逸らしてしまいがちな私たちですが、本展で展示するフィンランドを拠点する2人のアーティストの作品は、家族という単位の尊さや、忘れがちになってしまう過去や未来を喚起させつつ、各々の「いま」に焦点を合わせることの大切さも教えてくれるかのようです。


【アーティストプロフィール】

◇ ナヤブ・ノール・イクラム

1992年オーランド諸島(フィンランド)生まれ。ノヴァ応用科学大学(ヤコブスタッド、フィンランド) で写真を専攻し、文化芸術学士号を取得。​

ナヤブ・ノール・イクラムは、フィンランドを拠点とするビジュアル・アーティスト。フィンランドの非武装自治区でありスウェーデン語圏であるオーランド諸島出身の、パキスタンのディアスポラ出身の写真家。
映像、写真、パフォーマンス、インスタレーションを手がけ、儀式や象徴を通して、中間的な感覚 (in-betweenship)、文化的アイデンティティ、記憶を扱ったコンセプトを探求している。

イクラムは、Botkyrka Konsthall(2024年、スウェーデン)、Helsinki Kunsthalle(2023年、フィンランド)、Gerðarsafn(2022年、アイスランド)、Mänttä Art Festival(2021年、フィンランド)、Västerås Art Museum(2020-2021年、スウェーデン)、European Parliament など、フィンランド国内外にて展示。ヘルシンキ美術館やオーランド美術館などに作品収蔵。

2019年にはフィンランドのスウェーデン文化財団から文化賞を、2022年にはオーランド諸島のアンナ=レナ・ドライヤー芸術基金を受賞。2024年にはフィンランド・インスティテュート・イン・ザ・UK&アイルランド×アクメ・ロンドン・レジデンス、2024年にはデンマーク・フィンランド文化会館と共同でコペンハーゲンで1週間開催されたスティナ・クルック財団のポートフォリオ・レジデンスプログラム「PortRe」を受賞。

2025年秋から2026年春にかけて、フィンランド写真美術館(ヘルシンキ)で新作を展示予定。

◇ サンプサ・ヴィルカヤルヴィ

1970年生まれ。時間と変化と社会、そして個人の選択とその不可能性に興味を持つビジュアルアーティストでありドキュメンタリー映画監督。経済大国と技術革新の圧力のもとで生まれる体験に関心があるヴィルカヤルヴィは、文化や歴史的な事柄を扱う作品を制作している。

ヘルシンキ国際映画祭(2022年、フィンランド)、ソウル市立北ソウル美術館(SeMA、2019年、韓国)、セルラキウス美術館(2018-19年、フィンランド)、ヘルシンキ現代美術館(2008年、フィンランド)、クンストハーレ・ヘルシンキ(2001年、フィンランド)などの展覧会や映画祭に作品を発表。

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4-7-6 Shirakawa, Koto-ku, Tokyo

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